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最高裁判所第三小法廷 昭和35年(オ)1299号 判決 1963年10月08日

主文

原判決中上告人に建物明渡を命じた部分を破棄し、これを大阪高等裁判所に差戻す。

その余の部分につき上告を棄却する。

前項につき上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人谷村唯一郎、同塚本重頼の上告理由第一、二点について。

代物弁済の予約の仮登記を経由した場合に、債権者が所有権を取得するのは予約完結の意思表示をしたときであつて、仮登記を経由したときに遡るのではないこと勿論であるが、本登記の順位は仮登記の順位による(不動産登記法七条二項)のであるから、仮登記権利者は、本登記を経由し、または本登記をなすに必要な要件を具備するに至つたときは、仮登記によつて保全された権利に抵触する仮登記後の物権変動を、それが仮登記権利者の所有権取得の時期の前であつても、すべて否認し、その登記の抹消を請求しうるものと解すべきである。論旨は、独自の見解であり(引用の判決も論旨を支持するものではない)、採用できない。

同第三点について。

原判決が所論四五万円の貸金の弁済期を貸付の日から三ケ月後と認定したことは、その挙示する証拠関係に照して肯認しえなくはない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実認定を非難するに帰し、採用しえない。

同第四点について。

仮登記は本登記の順位を保全する効力があるに止まり仮登記のままで本登記を経由したのと同一の効力があるとはいえない。したがつて、本登記手続が終るまでは、上告人は被上告人の右登記の欠缺を主張しうる第三者に該当し、被上告人は上告人に対しその所有権の取得を対抗しえない筋合である(昭和三二年六月一八日最高裁判所第三小法廷判決、民集一一巻六号一〇八一頁参照)。原審は、被上告人の本件建物明渡請求が即時履行を求める趣旨であるならば、本登記が経由されたかどうかを審理し、あるいは本明渡請求が本登記を経由することを条件とする将来の履行を求める趣旨であるならば、その点を明確ならしめた上判断すべきであるのに、原判決が、被上告人の本件建物所有権にもとづく明渡の請求を、被上告人が本登記を経由したことを確定せずに漫然認容したのは、仮登記の効力を誤解したか或は理由不備の違法があるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決中被上告人の建物明渡請求を容認した部分は破棄を免れない。

よつて、本件上告中本件建物の所有権取得登記の抹消登記手続を命じた部分に対する上告は棄却し、本件建物の明渡を命じた部分は原裁判所に差戻すべきものとし、上告理由第五点に対する判断を省略し、民訴法四〇七条一項、三九六条、三八四条、九五条、八九条にしたがい、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一 裁判官 横田正俊)

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